Googleマップで実家の近所を見ていると、ちょうど9年前、まだ私が未成年の頃のストリートビューでした。祖父が亡くなり譲受けた軽バン(ターボがついていたので「スーパーカー」という愛称でした)が停めてありました。また、近所の家たちも何軒か建て替え前でした。
とはいえ、実家の近所はまだマシなのです。地方で古くなった家を建て替えられる、新陳代謝が進むというのはそれだけでもまだ望みがあります。本当に人がいなくなったら、空き家は放置され、若い人たちは便利なところへと越して行って、老人だけが残り、やがてその老人たちも土の下ですから、荒れ地にそして自然へとゆっくりと還っていきます。
私の地元市は明治・大正・昭和と北関東の中では栄華を極めてきましたが、1970年近辺を境に人口は急転直下。今では全盛期の70%程度の人口です。ちなみに、県内トップの高齢化率で、人口の3人に1人以上は高齢者です。また、30年後、つまり私が定年を迎えるか否かというあたりにもなると、人口は今の半分程度になっている、という予測です。
パイの奪い合い
日本中どこもかしこも人口減です。最近は千葉県印西市とか流山市とか埼玉県八潮市とか戸田市とか川口市とか流入著しいところもありますが、それはあくまでもパイの奪い合いに過ぎません。まあ、都内で高い家賃にあえいで疲弊するくらいなら、国道16号線沿線あたりに住むのはお財布にも心身ともに良さそうです。
さて、地方都市において人口縮減の原因は絶対的なものと相対的なものがあります。絶対的なものというのは、そもそも雇用が存在しないとか、現代の経済体制に適合しない産業構造ゆえに、人口が流出せざるを得ないとか、そういうことです。秋田県と高知県のことですね。
一方相対的なものというのは、私の地元市が当てはまります。一応東証一部上場の製造業の本社があり、それにぶら下がる関係各社がある地方工業都市です。国立大学の工学部もあり、戦災で焼けなかったこともあって歴史的な街並みもそこそこ残っていて文化の香りの漂う街です。しかし、それにもかかわらず人口は急減の一路です。なぜでしょうか。
それは、隣接する市町村に人口を根こそぎ持っていかれているからです。隣り合うO市はみなさんご存じのあの自動車メーカーの大本営。お隣のI市は東証一部上場製造業の本社だけではなく、日本の名だたる企業の工場が軒を連ねる大規模工業団地があります。
また、O市にもI市にも、幹線道路沿いに立派な大型ショッピングモールがあります。映画館も無印も大型書店もスポーツショップもLOFTだってあります。地元市にはどれもありません。
それ以上に、O市もI市も郊外の農地をつぶして宅地にどんどん転用されています。どちらも山間部がほとんどないので(I市は全くありません、O市も少ないものです)、開発余地が全然あるのですね。土地も安いですし。一方、地元市はただでさえ市域の半分以上を山林が占めていて、平地は20世紀に開発しつくされてしまいました。最近実家の近くで農地が新規分譲地になりつつありますが、まあ軽微なものでしょう。かたや、市街地はどの市も空洞化が進んでいます。市街地というのは、開発余地がなく、既成の地縁が構成されきった後というのに、買い物が不便なので若い層には敬遠されがちです。地価だって相対的には安くありません。
そう、相対的なものというのは、「たとえ自分の自治体にそこそこ求心力があっても、周りにそれ以上の求心力のある自治体があったらそちらに人口を吸い上げられる」ということです。
撤退戦
私は地元市が好きですが、隣接するO市やI市に人口を吸い上げられる将来は止められないと思っています。2045年の人口予測は、地元市は5万人減で現在の半分になりますが、O市もI市もせいぜい2万人減程度で現在と大して変わりません。
だからといって、O市やI市の未来がバラ色かというと、そうでもありません。先述の通り、郊外の農地をつぶして作ったスプロール現象が重くのしかかってきます。そう、上下水道や道路・橋・そのほか公共施設等のインフラ負担です。地元市は下水道整備はほぼほぼ完了していますし、市街地はこれ以上広がりません。一方、O市もI市もスプロール現象に歯止めをかけることはできそうにありません。こうしたインフラの維持費がずっしりと自治体財政にのしかかってきます。
地元市は人口減に際して、数年前に大規模な改革を行いました。市の中心部の公立中学校6校を統合してなんと2校にしたのです。私が中学生の頃の話なのでよく覚えています。
当時は地元の人たち含め大反対が起こりました。しかし、行政サイドは粛々と断行しました。そして十数年後の今、それは結果的には正解だった、ということが分かりつつあります。人口サイズに見合った適正な規模だった、ということです。
そして、統合案は幼稚園・保育園まで及んでいます。2024年度末までに、私立の幼稚園・保育園を現状の半分に統合する、ということです。人口が比較的多い市南部はそこそこですが、人口減著しい市中心部や北部はがっつり統合です。
人口減は避けられない未来です。その中、どうしても過去の栄光に浸って定数減やリストラやサービス縮減や終了に抵抗する層が一定数(多くは老人ですが)見受けられます。
今までが出来すぎだった、夢を見ていたのです。人口規模に合わせた現実的な施策を粛々とこなしていく自治体の「撤退戦」には好感が持てます。
そのうち、リアルに集落の放棄とか廃止とかそういう話が持ち上がってくるかもしれませんね。遠い将来の話ではなく、私が生きているうちにそういう話は頻繁に持ち上がってくるでしょう。
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